嫌いなアイツ


「返事、してよ」

 つい、言ってしまった。
 反応が無いとつまらないからなのか。彼女の反応の薄さに、飽き飽きしたからなのか。彼女が、自分を恐がっているという噂なのか。
 何故だか分からない。分からないけれど、俺は彼女に何か言って欲しかった。
 彼女は、俺のその言葉に俯いていた顔をあげた。その顔には、涙が幾筋も流れ、机に染みを作っていた。
 彼女は、静かに口を開いた。

「嫌い」

 一言。そう言って彼女は、教室を飛び出した。
 ああ、嗚呼。その言葉が、やっと俺を悪夢から目を覚まさせた。俺は、とんだ弱虫だった。俺は、とんだ臆病者だった。


 その言葉を聞いて、俺はぺたりと彼女の机の前に座り込んでしまった。今まで意地を張って強がっていたから、周りの奴らは目を丸くした。
 俺は、頬に感じる雫に、独り「馬鹿だなぁ」と呟いた。


end
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