ひまわりの丘

「もう、帰る……?」


不意の、蒼太君の問いかけ。


「え」


返す言葉が見あたらなくて、そのまま黙りこんだあたし。

数十秒ほど静まり返った車内の空気を、蒼太君の柔らかな口調が優しく壊した。


「ここで引き止める勇気が俺にもあれば……な」


そして助手席のあたしを見てちょっとだけ笑って……でもすぐに真面目な顔つきに戻った。

その横であたしは、どうしようもないくらい心がざわついていた。

強く強く胸を揺さぶられていたんだ。


あんな奴、って思っていたのに……。

なのに。

今すぐに車を降りてあの場所へ駆けて行きたい、心はそう叫んでいる。


「由那ちゃん、ランチ付き合ってくれてありがと……俺、帰るね」


軽い口ぶりで言った蒼太君だけど、でもいつもの彼とは違っていた。

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