ひまわりの丘
時計の針は、夜の十時を回るところだった。
「あたし、そろそろ帰るね」
トイレから出てきたりっちゃんに、そっと告げた。
「誰かに送ってもらわなくて大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。
みんな出来あがっちゃってるし……それより、りっちゃん?」
「なに?」
「黙ってないで、もっと積極的に話かけなきゃ?」
あたしの言葉に目を丸くしたりっちゃんだけど。でも、少しの間を置いてコクっと頷いた。
蒼太君だって、春になったら東京へ帰ってしまうんだから。
『コンプレックスなんて言ってないで、やりたいことをやろうと思って』
それは、彼が言った言葉。
東京へ戻ったら、大学の学部を移る試験を受けるんだと話していた。
油絵を専攻して、本当にやりたいことに向き合うんだと笑っていた。
外へ出ると、静まりかえる町にしんしんと雪が降っていた。
眺めるだけなら素敵な風景なんだけど……だけど、この寒さときたら生半可なもんじゃない。