ひまわりの丘

「窓からは枝垂梅(しだれうめ)が見えてね、細い枝を止まり木のようにして咲いている梅の花を眺めていたんだ。

……だけど彼女は来なかった。

何時間待っても、来なかったんだ。
携帯電話もまだ持っていないような時代だったから、連絡もとれなくて。

日が暮れ始めた頃、僕は、店の人に伝言を書いたメモ紙を渡して、彼女のアパートへ走った。

そしたら清掃会社の人が来ていて、部屋の中は、もぬけの殻という状態になっていたんだ。

それで僕は、すぐに学校に電話をかけた。何故だか、変な胸騒ぎを感じていた。

偽名を使って『水内先生という方は勤めていらっしゃいますか?』って尋ねた。 そしたら『水内先生は、今日付けで退職されました』って言われてね……。

そのまま何処へ行ったのかもわからなくて……彼女は、僕の前から姿を消した。

今思えばあの時、彼女のお腹の中には君がいたんだね。

知らなかったんだ ――― 」

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