ひまわりの丘

「由那ちゃんさ、もっとゆっくりでいいと思うよ」

前を歩いていた蒼太君が、ふいにそんなことを言った。


「ゆっくり?」

「うん。何かしなきゃってあせってるんじゃないかと思って。こっちへ来てまだ一ヶ月なんだし、ゆっくりゆったりいこうよ」

立ち止まり振り返って穏やかに笑う。

「あせってる……あたしってそんなふうに見えてた?」

「うん。ちょっとだけね。実はジンさんも心配してたんだ、無理してるんじゃないかって」


確かに当たっていた。

でもみんなにも、そんなふうに見えてたなんて。必死にやってるつもりでも心配かけてたんだ……。


「走り続けてばかりじゃ見落としてしまう物もある。だから時には立ち止まって、周りを見渡す時間も持ってもいいんじゃないかな。
なぁんてね。一年も立ち止まったままでいる奴が、偉そうに言えないか」


芸大の2年生だという彼は、今は休学中の身らしい。

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