ひまわりの丘
「ここだから」
“お手洗い”の札の付いたドアを指して言い、その場を立ち去ろうとした。
でも、その一瞬後――
ドンッ!
耳の側で起きた物音に体が僅かに跳ねた。
「……っ!」
隼太が、あたしの後ろ側の壁に両手をついていた。
壁際に閉じ込められたその状態に、驚きのあまり瞬きもできないでいると、虚ろな瞳に顔を覗きこまれた。
……まただ。
心臓が急ピッチで騒ぎだす。
からかうような表情で、ほんの少し首を傾げた隼太。
徐々にその距離を狭めてくる。
ゆっくりとあたしの右耳に口元を近づけ、そして囁いた。
「今日もアンタ、いい匂いがするね」
目線を上げるとそこには、唇をほんのちょっと歪ませて笑う、あの時と同じ艶っぽい目があった。
「―――っ」
体中に熱を帯びていく。
そのままでは居られなくて、慌てて視線を逸らした。