短編集*虹色の1週間
ようやく、マンションの前までたどり着いた。
また、澤木がマンションのガラス扉を開けてあげる。
「どーも」
敦子は、すっかり汗だくだ。
「それでは」
澤木はそう言って、向かいの自宅へ向かった。
「センセー」
門扉に手をかけたとき、ガラス扉の向こうにいるはずの敦子の声が聞こえた。
振り返ると、エントランスにゴミ袋を置きっぱなしにして、敦子がガラス扉から顔を出している。
「どうしました?」
「また、クリニックに行ってもいい?」
「え?まだ痛みますか、お腹」
「そうじゃなくて。今度は、恋愛の相談に!」
「え?私じゃ、お役に立ちませんよ?」
困惑顔の澤木を残し、根岸敦子はにこっと笑うとまたガラス扉の向こうに姿を消した。
恋愛に関しては、私よりも根岸さんのほうが色々経験されてるじゃないですか。
殴る蹴るの大喧嘩とか。
「フンギリ」とか。
私も医者として、まだまだだな。
苦笑いをしながら、門扉に手をかけ、今度こそ自宅に入ろうとする。
するとまたしても、敦子の声が聞こえた。