短編集*虹色の1週間
もっとも、このスーパーの惣菜部門に勤めている小宮山真吾は、バックヤードで他の従業員が「今日来店した面白い客の話」略して「客バナ」に花を咲かせているのには少々閉口している。
「昨日、『カバ田キャベ男』が来てさあ!」
「嘘!またキャベツ?」
「そう!かごん中、全部キャベツ」
「うける~!マジうける」
レジ担当の女性店員が、『カバ田キャベ男』で盛り上がりながら、フライヤーの脇を通り抜けていった。
・・・おい、『カバ田キャベ男』って。
一応、お客様なんだからさあ。
小宮山真吾は、大量のフライドチキンを揚げながら、大きなマスクの裏側で軽くため息をついた。
彼はその顔に違わず、根っからの「人の良い人」なのだ。
でも気が小さいので、
「せめて『カバ田様』と言いましょうよ」
などとは言えないのだが。
しかし、その人の良い小宮山真吾でさえも、つい話題にしてしまいたくなるお客が、一人いた。
それが、火曜日の朝一番に必ず来店する『オジサンオバサン』だ。