短編集*虹色の1週間


このお客には、店内で観察される立ち居振る舞いから実に様々なあだ名がつけられてきた。

『一番大好き』
『ビニール袋大好き』
『ショッピングカート・レーサー』
『バイキング・キング』
『欲張りババア』
『半額ハンター・のぶ代』
(断っておくが、本当の名前は誰も知らない。
ある若い店員が
「なんかぁ、あの人『のぶ代』って感じぃ」
と言ったのでついた名前だ。)

この惣菜部門では、『オジサンオバサン』と言われている。
このネーミングには、隠れあだ名反対派の小宮山真吾が図らずも関わっていた。

パンチパーマが伸びたような男女共用の髪型と、
スラックスとTシャツが包む、性別を超越した堂々とした体型、
それにあまりの傍若無人な買い物ぶりから、
小宮山真吾は、てっきり『バイキング・キング』は男性なのだと思い込んでいたのだ。

「袋に詰めすぎなんだよ、あのオジサン」

「え?小宮山くん、あの人オバサンだよ?」

その日から、このお客は『オジサンオバサン』と呼ばれることになった。



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