短編集*虹色の1週間
開店5分前。
スーパーTAKAIのテーマソングが店内に流れ始めた。
♪あなたの街の~
スーパーです、タカ~イ~
名前はタカイが値段はヤスイ~
スーパー、タ、カ、イ~♪
結局、高いのか安いのかよく分からない迷曲だ。
しかしこれを年がら年中聞いていると、もうそういう意識は麻痺していて、小宮山はこれがかかると自動的に仕事モードのスイッチが入る。
「はいいらっしゃい!安いよ安いよ~」
小宮山は営業用の声の練習をしながら、山積みにしたフライドチキンを売り場に運ぶ。
フライドチキンの詰め放題は、スーパーTAKAIの「火曜激ヤバマジ安市」の目玉商品だ。
全国的になぜか売り出しの多い火曜日、スーパーTAKAIはこの詰め放題で熾烈な競争を生き残ってきた。
輸入物の小ぶりなサイズではあるが、袋に詰め放題で300円は、確かに魅力的な企画だ。
あぁ、これなんか大きめだしプリッとしててめっちゃおいしそうだな。売れ残らないかな~。
小宮山は、トングでチキンの山を整えながら、遠くに見える出入り口をちらりと見た。
まだ開かない自動ドアの向こうに、既に客が何人か。
先頭はもちろん、『オジサンオバサン』だ。
オジサンオバサンは、自動ドアにペタッと顔を押し付けて、店内をくまなく観察している。チキン詰め放題コーナーまでの最終ルート確認をしているようだ。
そうしながら、足首をくるくる回している。準備体操も、ばっちりだ。
…無理だな、売れ残る訳がない。
小宮山はあきらめて、でもささやかな抵抗として、一番大きなチキンを下の方へ隠した。