短編集*虹色の1週間
午前9時。
自動ドアが開いて、待ちわびた客がわっと店内になだれ込む。
オジサンオバサンは無駄のない動きで買い物カゴとカートをつかむと、お腹を揺らしながらチキン詰め放題コーナーへ急ぐ。
その後ろを追う他の客たち。だが、オジサンオバサンが腕を横に大きく振って歩くので、追い越すことができない。
あぁ、来るぞ来るぞ…
殺気を感じた小宮山はバックヤードに下がり、残りはのぞき窓から観察することにした。
オジサンオバサンは到着するとまず、トングを確保する。
それからビニール袋を取り、中に両手を突っ込んで・・・
ぐいぐいとビニール袋を伸ばしにかかる。
そして、チキンの載ったテーブルの両端に手をかけ、チキンの山をにらむように見つめた。
その目つきは、獲物を狙う肉食獣そのものである。
あまりの真剣な取り組みぶりに、他の客がたじろいでいる。
あぁ、あの大きなチキンちゃん、今顔を出しちゃいけないよ。
下のほうに隠れておいで。
小宮山は、すっかりチキンの保護者の気持ちだ。
そのとき、オジサンオバサンのトングが、キラリと光った!
下のほうにトングをつっこみ、引っ張り出したのは・・・
あぁ、なんということだ。
小宮山が気に入っていた、あの大きなチキンではないか!
チキンちゃんは、なす術もなくオジサンオバサンの毒牙にかかりあっけなく袋の中へ・・・
-小宮山さん、お世話になりました。
私の事は忘れて、どうかお元気で-
と、チキンが言ったわけはないが、心を込めて揚げた小宮山には、チキンがそう言ったような気がしてならない。
・・・チキンちゃん、無念。
オジサンオバサンはその後も、鋭い眼光で大きなチキンを選び出しては、次々と袋の中にムギュムギュ収めていく。
袋の口が縛れなくなっても、まだ詰め続けている。
いや、もはや詰めているのではない、載せている。
他の客は羨望と軽蔑の眼差しでそれを見ているが、オジサンオバサンは全くお構いなしだ。