短編集*虹色の1週間
「遠慮が美徳じゃ」
「残り物には福がある」
とおばあちゃんに教えられて育った、根っから人の良い小宮山には、オジサンオバサンの行動全てが理解しがたいものだった。
まぁ、確かに。
確かに、「詰め放題:一袋300円!」としか書いていない。
「袋は伸ばさないでください」とも、
「チキンは上からお行儀よくお取りください」とも、
「骨が袋を突き破らないように入れてください」とも、
「袋の上はテープでとめてください」とも、
「他のお客様を威嚇しないでください」とも、
書かれてはいない。
書かれてはいないけど、ジョーシキというものがあるでしょうよ。
「毎週毎週、あんなに買って行ってどうしてるんだろう」
心の中からぽろりとこぼれ出た小宮山の独り言に、隣で見ていた同僚が答えた。
「あのお腹だろ。テレビ見ながらムシャムシャ食べるのさ」
小宮山は想像力豊かなほうではないが、
オジサンオバサンが、ソファに寝転がってチキンをほおばりながら、
昼下がりのワイドショーを見て空虚に笑っている姿は、容易に想像できた。
あぁ、俺が心を込めて揚げたフライドチキンが。
狭い袋にぎゅうぎゅう詰められて。
ろくに感謝もされずに、あのお腹の中に消えていくのか。
パンパンに膨らみ、バケツのようにまん丸の筒状になったビニール袋。
その中に、ブラックホールもびっくりの密度で詰め込まれたフライドチキン。
そしてその上にも、絶妙なバランスで崩れないように載せられたチキン。
それを抱えて、勝ち誇ったような得意気な笑顔を浮かべ去っていくオジサンオバサン。
負けたわけではない。
でも、小宮山はそれを見るといつも、正義が悪に敗れたような敗北感に襲われるのだった。