短編集*虹色の1週間


小宮山は、
「一日中チキンを揚げていて、もうチキンなんか見たくもない!」
と思うような、繊細な神経の持ち主ではない。

夕方。
小宮山は仕事帰りに、ケンタッキーでチキンを2ピース買った。
詰め放題は、今週もめでたくお昼に完売。
実は、自分で揚げたチキンをまだ一度も食べたことがないのだ。
一日中チキンを揚げたのに、一口も食べていないことが理不尽に思えて、
小宮山は時々、帰りにケンタッキーに寄った。

今日は恋人の敦子と一緒に食べようと思い買ったのだが、買った後で敦子から
「今日は直美とカラオケだからダメ。メンゴ☆」
とメールが入った。

困ったな、どうしよう。

「他人様に迷惑をかけてはいけないよ」と、おばあちゃんが言っていた。
ニンニクと秘密のスパイスがホワホワと香るこの袋を持って、お腹をすかせた乗客で込み合う夕暮れ時の電車に乗るわけにはいかない。

敦子のマンションの周りを少しうろついていると、住宅地の中に公園を見つけた。
ブランコとすべり台、それに土管の山があるだけの、小さな公園。
日は暮れかけていて、もう子どもたちの姿はない。

あそこで食べて、帰ろうか。

小宮山は、公園の隅のベンチに腰を下ろした。

ブランコが、風に揺れている。

袋からチキンを取り出して、一口ほおばった。
皮がパリパリと音をたて、中からジューシーな肉汁がしみだす。

あぁ、うまい・・・
やっぱり、詰め放題よりケンタッキーだねぇ。
食べたことはないけど。
と、小宮山が思ったそのとき。

小宮山の後ろから、歌が聞こえてきた。


♪あなたのまちの~

スーパーです、タカ~イ~♪



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