短編集*虹色の1週間

ヨシオと呼ばれた一番小さな子どもの手には、フライドチキンが握られていた。
小宮山が揚げた、あの詰め放題のチキンだ。

「母ちゃんは、まだ食べてないんだぞ!」

「兄ちゃん、バカ!!」

食べたい気持ちと母親への思いで、訳の分からなくなったヨシオは、一層激しく泣き出す。

「バカって言った奴、もっとバカ!」

「お前の母ちゃん、デーベーソ!」

他の兄姉も加勢し、騒ぎは一層大きくなる。

混乱を極めたこの事態に、オジサンオバサンがそれを上回る大きな声で一喝した。

「いいんだよ!子どもは風の子、腹いっぱい食べな!」


ヨシオはふいをつかれて、泣き止んだ。
「・・・でも、母ちゃんは?」

「これが目に入らぬか」
オジサンオバサンは、自分の腹を突き出した。

「これ以上太ったら、着るもんがなくなるよ!」

オジサンオバサンは、ガハハ!と笑い飛ばす。

それを合図に、また元の賑やかな食卓が戻ってきた。



< 25 / 95 >

この作品をシェア

pagetop