短編集*虹色の1週間
ヨシオと呼ばれた一番小さな子どもの手には、フライドチキンが握られていた。
小宮山が揚げた、あの詰め放題のチキンだ。
「母ちゃんは、まだ食べてないんだぞ!」
「兄ちゃん、バカ!!」
食べたい気持ちと母親への思いで、訳の分からなくなったヨシオは、一層激しく泣き出す。
「バカって言った奴、もっとバカ!」
「お前の母ちゃん、デーベーソ!」
他の兄姉も加勢し、騒ぎは一層大きくなる。
混乱を極めたこの事態に、オジサンオバサンがそれを上回る大きな声で一喝した。
「いいんだよ!子どもは風の子、腹いっぱい食べな!」
ヨシオはふいをつかれて、泣き止んだ。
「・・・でも、母ちゃんは?」
「これが目に入らぬか」
オジサンオバサンは、自分の腹を突き出した。
「これ以上太ったら、着るもんがなくなるよ!」
オジサンオバサンは、ガハハ!と笑い飛ばす。
それを合図に、また元の賑やかな食卓が戻ってきた。