短編集*虹色の1週間

ジョンおじさんがニッポン旅行の土産に武士のかつらをくれたは、ジョージが8歳のときだった。
時代の先行く逆モヒカンヘアに、芸術的な衝撃を受けた。
それ以来、日本はジョージにとって「あこがれの遠い国」となった。


念願かなって日本に来てから、3ヶ月。

実は今、ジョージがかなり重症のホームシックにかかっていることを、誰も知らない。

学校で唯一英語がまともに話せる川上先生に、少し弱音を吐いてみたこともあるのだが・・・

「Ahh,I wanna eat my mom's cherry pie!」
(母さんのチェリーパイが、食べたいなぁ)

と言ったら、なぜか
「Oh,baker!」
と頭を叩かれ、大笑いされた。

みんな笑ってるから、多分ジャパニーズ・ジョークなんだろう・・・
陽気で楽しいアメリカ人のプライドを守りたくて、ジョージも笑った。
本当は、笑う気になんかなれなかったけれど。

水曜の夕方、高伊小学校の職員室では職員会議が開かれる。
しかし、ジョージがその会議に呼ばれることはない。

日本語が分からないから、指導計画だの処遇検討だの、小難しい話を聞いてもしょうがない、と思われているのだろう。
実際、そのとおりなのだが。

毎週水曜の夕方、川上先生に
"George,you can go home now."
(今日はもう帰っていいよ)
と言われると、ジョージはなんだか
「部外者はとっとと帰ってね」
と言われているような気がして、内心傷ついていた。

夢がかなって、やっと日本に来れたのに。

自分と周りの日本人の間に、見えない壁があるように感じる。
あの真っ黒い細い瞳から世界がどんな風に見えるのか、見当もつかない。
今、日本はジョージにとって、前よりももっと「遠い国」になっていた。



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