短編集*虹色の1週間
水曜日は、子どもたちの下校時間とジョージの帰宅時間が重なる。
そこで、帰る方向が一緒の子どもたちと自然と連れ立って帰るのだが、これもまた、ジョージにとっては密かに苦痛な時間となっていた。
「ゴミゴミのバズーカ!」
「ジロー、カンチョすんな」
「バスーン!ンババババ」
「アールプース一万ジャーク、コーヤーギのウーエデ」
・・・子どもたちの発する言葉が、レベルが高すぎるのか低すぎるのか、もはや日本語かどうかも分からない。
分からないが、陽気なアメリカ人らしく、周りに合わせて笑ったりしてみる。
本当は、笑う気分になんてなれないんだけど。
角を曲がるたびに子どもたちの数は減っていき、6回曲がったところで3人になる。
同じ大家の貸家に住んでいる子どもたちだ。
7回目の角を曲がった先は細い砂利の袋小路になっていて、マッチ箱みたいな数軒の家とジョージの住んでいるアパートがあるだけだった。
「バイナラ、ジョージ」
「シーユーアゲイン、リゲイン、正倉院」
子どもたちは、学校でジョージに教わった英語の帰りの挨拶を自分なりにアレンジして、自分たちの家に入っていった。
「バイナラ、ショウショウイン!」
ふぅ、やっと一人になった。
子どもたちに背を向けたジョージは音をたてずに、陽気なアメリカ人のお面を外した。
愛想笑いで使った頬の筋肉が、口元に重くのしかかってきて、自然と口角が下がっていく。
あ、しまった。
まだ一人じゃなかった。
ジョージがそう思ったときは、もう遅かった。