短編集*虹色の1週間


「ジョージや」

木陰にたたずむ、老婆の姿。
乱れた白髪。
しみとシワに覆われた顔。
子どものように小さくて貧弱な体つき。
垂れ下がったまぶたからわずかにのぞく、無表情の黒目。
グレーのポリエステル地の服には、「なんだかよく分からない柄」という表現がぴったりの柄が一面に施されている。

「ヒィィィッ」

ジョージは思わず声を上げた。

こういう老婆を、前にアジアのホラー映画で見たことがある。

自分の大家さんだと分かっていても、
水曜日は必ずそこにいるって分かっていても、
ジョージはいちいち驚いてしまうのだった。

それに、僕の名前は「GEORGE」。
「GEORGIA」は女の名前だっての。
(英語が分からない人のために一応説明するが、これは「つよし」君に「つよ子」と呼んでいるようなものだ。)
これもジャパニーズ・ジョークの一つなのだろうか?

「オーヤーサン、コニチワ」
ジョージは、本心を慌てて中へ押し込んで、明るいアメリカ人のお面をかぶりなおした。

「よっこらせ」
ジョージの大家・田丸ミサエは、座っていた家の濡れ縁からゆっくりと立ち上がった。

全く、アメリカ語っていうのは難しいね。
なんで「ゲオーゲ」って書いて「ジョージ」って読むんだい。
息子に「ホリゾネ」とかっていう辞典借りてみたけど、さっぱり分からん。

ミサエは毎日この時間、散歩に外に出る。
杖で石ころを脇によけながら、ゆっくり砂利道を出て行って、近くの公園まで行って、ベンチに座り、また帰ってくる。
それから、自分の家の濡れ縁に腰かけ、帰宅してくる貸家の子どもたちを見届けることにしているのだが、
水曜日にはその「やることリスト」に「のっぽの外国人と話をする」も加えていた。

ミサエは、ただでさえ小さな、今は腰が曲がってしまったので余計に小さな体を精一杯伸ばして、自分のはるか上に見えるジョージの顔を見上げた。
そして自分なりの最高の笑顔を作った。


「ワターシワ、」

「アナータノ、」



「オー、ヤー!」




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