短編集*虹色の1週間
「I know...アナータワ、オーヤーサンデース」
泣き出しそうな声で答えるジョージに、ミサエは違う!と首を横にふった。
ミサエは戦時生まれ、野球の「セーフ」と「アウト」を「よし」とか「だめ」とか言うように育てられてきた世代の人間である。
ジョージの答えで、自分の言いたいことが全く伝わっていないことに気づきはしたものの、それに代わる言葉を持ち合わせていなかった。
油の切れて久しい頭をフル回転させて、今度は身振りで表現してみた。
以下、かっこ内はミサエの迫真の演技を見たジョージの心の声です。
「オギャーオギャー!」
泣いている赤ちゃん。
(・・・かんしゃく起こしたエイリアン?)
「おー、よしよし、太郎。どったの?」
赤ちゃんを抱く母。
(エイリアンの攻撃で、腕が曲がっちゃったのか?)
「ねんねーんころりよ、おころおりよぉ~」
(秘密の呪文で、ダメージ回復?)
ジョージの頭の上に、大きくて石のように重い?マークが幾つも並んだ。
やっぱり・・・
大家さん、ぼけちゃったのかなぁ・・・
日本語の分からないアメリカ人と、
英語の分からないぼけた日本人。
あらゆる意味で、全く救いようがない組み合わせだ。