短編集*虹色の1週間
ミサエは歯が悪いから、せんべいは食べない。
「よっこらせっと」
食べずに、ジョージの隣に腰を下ろした。
「ふぅ」
思考能力が限界に達し、ミサエはもう英語(本人は英語のつもりで喋っている日本語のこと)を喋るのも身振りもあきらめた。
これ以上やったら、脳の血管が切れそうだ。
誰も何もしゃべらない。
麦せんべいをかじる音だけが聞こえる。
そのまま、静かな時間が流れていく。
向かいの家の屋根の上、薄かった夕空の茜色が、少しずつ濃くなっていく。
並んで座った二人は、なんとはなしにその夕焼けをぼんやり眺めている。
いつしかジョージは、「陽気で明るいアメリカ人」のお面をすっかり脱いでいた。
本当は、無口で臆病なアメリカ人。
素顔にふれる、暖かいそよ風が心地いい。
ふいに、ミサエが口を開いた。
「GEORGIA」