短編集*虹色の1週間


ところで、医者のイメージに浸りきっているときに大変恐縮なのだが、
ここで「お水系じゃないのに、お水系に見えてしまう30代女」に対して一般市民が抱くイメージを少し、膨らませてほしい。

それが、
・髪の毛は絶対に茶髪。そして傷んでいる
・ヒョウ柄大好き。
・紫色も大好き。
・マニキュアがはげかかっている。
・長年のタバコと酒で、声はハスキーボイス。
・名前を知らない若い男性を呼ぶときは、「お兄さん」
であるなら、澤木クリニックの向かいに建つマンションの居住者・根岸敦子は、若干31歳にして「お水系じゃないのに、お水系に見えてしまう女」の典型的なモデルであろう。

一応言っておくが、根岸敦子はお水系の女ではない。土建会社で、事務のパートをしている。


人の気配に気づいた澤木康平が何の気なしに視線を移すと、マンションの出入り口の透明なガラス扉に挟まれている根岸敦子と、目が合った。

重い大きなゴミ袋で両手がふさがっているので、ドアを足で開け、少し開いた隙間からなんとか出ようと試みたが、ガラス扉の意外な重さに押し戻され、そのまま挟まってしまった-という図だ。

化学実験が失敗したときのような爆発頭に、ノーメイク。
しわしわのカットソー(ヒョウ柄の中になぜかさらにヒョウが描かれている、真のヒョウ好きのための柄)。
下は膝の抜けた毛玉だらけのジャージ(紫色)。

根岸敦子と目が合った澤木康平は、思わず
「すみません」
と謝ってしまった。

自分が女性だったら、いや男性だったとしても、こんな格好で異性と会ったら恥ずかしいに決まっている。
という、自らの美的感覚に基づいた謝罪だった。


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