短編集*虹色の1週間


ミサエはジョージの背中の真ん中を優しくさすった。
子供のころ、風邪をひいて咳が止まらなかったとき、ママがさすってくれたところと同じ場所。

ミサエの手は、あのときのママの手の感触とはずいぶん違う。
しわが深く刻まれた、固くなった皮膚で覆われた手。

でも-。
背中に置かれた手から、一瞬遅れて暖かさが伝わってくる。
あのときと、同じあたたかさだった。

ママがそこにいるような気がして、ジョージは思わずミサエを見た。

ミサエの、垂れ下がったまぶたからわずかに見える瞳と目が合った。
目じりがますます下がり、ミサエが微笑んでいるのだと分かった。


心の栓が抜けて、中にたまっていた何かが、目からあふれてくる。
それと同時に、心がすっと軽くなっていくのを感じた。

「Ohya-san,You're like my mother」

ジョージは泣きながら、
久しぶりに笑った。

そうしながら、口の中の麦せんべいの、かすかな甘みに気づいた。
・・・これ、意外とおいしいね。




さて。ジョージが英語の「parent」を日本語では「オヤ」ということを知るのは、もう少し先のことだ。


だが、まぁ、それは・・・

この二人にとっては、
大した話ではないだろう。




【水曜日のジョージ・完】


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