短編集*虹色の1週間

「キャフェ・ドゥ・マルタ」は、高伊駅前の通りに沿って続く、商店街の隅にある。

赤いビニールの日よけ。
上部が丸くかたどられた、木製のドア。
外壁を覆う、年季を感じさせるツタ。
全てが飴色の店内。
どの町にもあるような、古びた喫茶店だ。

この店の店主の娘である田丸美帆は、さっきから窓際の特等席にだらりと肘をつき、外の景色をぼんやり眺めている。
美帆は店内に一人っきりだ。
今日は木曜・・・「キャフェ・ドゥ・マルタ」の定休日。
母は近くに住んでいる祖母を病院に連れて行くのが常だし、父はパチンコにでも行ってるのだろう。
そういうわけでこの日だけは、美帆は二階にある自宅から、建物内で唯一クーラーがあるこの場所に降りてきて、涼しさを一人占領することができるのだ。

美帆の座っている場所から、店の看板が見える。
カタカナで、「キャフェ・ドゥ・マルタ」。

なんで「キャフェ」なんだろう。
「カフェ」でいいじゃん。
気になる。
「メリーチョコレートカムパニー」と同じくらい、気になる。

あまりにも暇なので、そういうどうでもいいことが頭に浮かんでは消えていく。



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