短編集*虹色の1週間
駅の方から、スーツ姿の男性が歩いてくる。
小柄な体格に不釣合いな、パンパンに膨れたカバンを肩から下げている。
この陽気と服装のせいで、顔から汗が止まらない。
乱れた前髪が汗で額にべったりとついていても、それを整える余裕もないようだ。
カバンが肩からずり落ちかかっていて、安そうなスーツが型崩れを始めている。
わー、相当お疲れだな~。
「飛び込み営業をしているけどさっぱり売れないサラリーマン」って感じ。
美帆がそう思ったとき、その「飛び込み営業をしているけどさっぱり売れないサラリーマン風の男」(以下、略して「サラ男」とさせていただきます)が、「キャフェ・ドゥ・マルタ」のドアに近づいてきた。
ガラスの格子戸に顔を近づけ、中を伺っている様子。
・・・え?
今日は定休日だよ?
ドアに出てるでしょ、「CLOSE」って。
傍観していたはずの外界の、突然の異常接近に、美帆のだらけた鼓動が一気に跳ね上がった。