短編集*虹色の1週間
地震・雷・火事・オヤジ。
昔から、怖いものの代表として挙げられてきた言葉だ。
しかし、高伊音楽院で夜間警備のバイトをしている小林友明には、この言葉はあまりピンと来ない。
小林の父親は、小柄で穏やかな人柄だった。母親のほうが、よっぽど怖い。
それよりも・・・
地震・雷・火事・オバケ
だろ。
小林はそう思いながら、今日も校舎の管理人室で長い長い夜を過ごしていた。
いや、ちがう。
地震は机の下に隠れればなんとかなりそうだし、雷もおへそを隠せば大丈夫だ。火事だって、火の元を気をつければ防げる。
そう、ほかの3つは、自分の努力で被害を防ぐか、最小限に抑えることができるのだ。
オバケはそうはいかない。
こっちが
「お願い!出てこないで」
と言ったところで、
「はい、分かりました」
と引き下がるようなオバケなんか、聞いたことない。
だから、オレ的には・・・
オバケ・妖怪・鬼・オバケ
だな。
あー!
だめだ、またオバケのことを考えてしまった。
友明、楽しいことを考えろ。
お花畑で、彼女とデート。
楽しいね、楽しいね。
ルンルン、ルンルンルーン。
小林は、いもしない彼女とお花畑でピクニックをしている自分を必死に空想した。
お花の間から時折、昔テレビで一瞬見てしまった血まみれの女の顔がのぞく。
小林はその度に、その顔を無理やり草むらの中にねじ伏せた。
楽しい、あー楽しい。
オレは今、とっても楽しいんだ。
小林は、自分にそう言い聞かせる。
小林友明は、霊感が強いタイプではない。
したがって、その世界のものを見たことは一度もない。
しかし、子供のころから、オバケというものが怖くて怖くて仕方なかった。