短編集*虹色の1週間


「き、気をつけてくださいよ!相手は何してくるか、分かりませんからね!」

いくらジェイソンが味方だからって、油断はならない。
相手はオバケだ。
口から炎を吹いたり、腕が刀に変わったり、目からビームが発射されたりするかもしれない。

小林は、音のするほうに向かおうとするジェイソンに、文字通り引きずられている。
その足取りのおぼつかなさといったら、まるで生まれたての小鹿のようだ。

「大丈夫ですよ、多分」

さ、さすが世界のジェイソン。その自信はどこから出てくるんだ。

小林の気持ちに答えるかのように、ジェイソンが多分大丈夫な理由を説明した。

「オバケがてんとう虫のサンバなんて、弾かないでしょ」

なるほど。落ち着いて聞いてみれば、それは確かに、結婚式の定番ソング「てんとう虫のサンバ」である。
小林の頭の中の、「オバケとは縁もユカリもない歌」リストにも入っている曲だ。
もしオバケがこれを弾いているのだとしたら、完全な選曲ミスである。

ジェイソンの冷静な判断に、小林はまた少し落ち着きを取り戻した。

ピアノが鳴り響く、暗い教室を二人でのぞき込む。

ピアノの前で、動いている人影。
髪の長い娘・・・ではなく、男性のシルエットだ。
小林は懐中電灯をつけ、その人影を照らした。

ピアノの音が、止んだ。





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