短編集*虹色の1週間
ついに長い夜が明け、東の空が白み始めた。
「・・・そろそろ帰ってもいいですか」
ジェイソンは結局、午前2時の見回りの後も小林に引き止められ、テレビの通販番組を一緒に見ながら一晩過ごした。
「本当に、ありがとうございました」
小林は、深々と頭を下げる。
もう、大丈夫。
夜明けとともに、夜の闇の呪縛は解けた。
ベートーベンもピアノも、もう怖くはない。
「おかげさまで、命拾いしました。あなたがいなかったら、もうどうなっていたことか」
怖すぎて、死んでいたかもしれない。
いや、少なくとも寿命が何年か縮まっただろう。
小林は、この感謝の気持ちをなんとか伝えるべく、管理人室にあった食料をあれこれとジェイソンに持たせる。
「私、毎週金曜のシフトなんで。ぜひまた来てください」
ジェイソンは、あきれ笑いを含みながらも、否定はしなかった。
明るくなり始めた空の下、校門を後にするジェイソン。
その後ろ姿を、小林は角の向こうに消えるまで見送った。
あれ?そういえば。
ジェイソンはなんで校舎の中にいたんだろう。
・・・まぁ、いいや。
また今度来てくれたら、聞けばいい。