短編集*虹色の1週間
様子を見に行くまでもなく、隣の部屋から百合の兄・春樹が顔を出した。
「ユリ!お前、披露宴で流すBGM、チェックしたのか?」
してない。
音楽のことは、タクにまかせてた。
専門家だからね、一応。
「まかせて!」って張り切ってたし。
「・・・どれもいい曲だよ?」
開け放たれた隣の新郎控え室から、卓也が弱々しく反論する。
「タイスの瞑想曲って!結婚式で瞑想して、どーすんだよ?」
「よ、よく向かいの『マルタ』でかかってた曲なんだ」
「亡き王女のためのパヴァーヌって!葬式の曲じゃねえか!」
「いや!これはラヴェルが美術館で見た、往年の王女の肖像画からインスピレーションを受けて作った曲で・・・」
「そんなこと一般人が分かるか!」
一応、選曲には彼なりのこだわりがあるようだが、口の悪い春樹の低評価に、卓也はすっかり意気消沈している。
「・・・パヴァーヌって、なんだかおいしそうな名前ですね」
百合の気持ちを鏡越しに察したスタイリストが、かなり無理のあるお世辞を述べてくれた。
「・・・式場にもBGMのご用意はありますが?」
「いえ・・・彼の選んだ曲でいいです」
タクが唯一、結婚式のために自分で選んでくれたものだから。
それを無駄にしたくなかった。