短編集*虹色の1週間
「安川先生がね、余興で弾く曲どっちがいいか?だって。『てんとう虫のサンバ』と『永遠に共に』。どっちがいい?」
「タクが決めてよ。音楽家さん」
「僕、どっちの曲も知らない」
・・・そうだった。この人は、自分の興味のある曲しか分からない音楽家だった。
「・・・じゃぁ、『永遠に共に』で」
扉の向こうで卓也が、高井音楽院の恩師である安川先生に取り次いでいるのが聞こえてくる。
「『永遠に共に』がいいそうです」
「え~、『てんとう虫のサンバ』、練習してたのにぃ」
・・・だったら初めから聞くな!!
と、突っ込みたくなるのを抑え、百合は声を張り上げた。
「『てんとう虫のサンバ』で、いいですよ!」
もう、音楽家ってなんでこうも自由な人が多いんだろう。
・・・あぁ、せっかくエステでお肌スベスベにしてきたのに。
なんかさっきから、眉間にシワがよってるような気がする。
だめだめ、今日は人生最高の日なんでしょ。
もっと幸せそうにしてないと、もったいな・・・
「あ"~!!」
また、隣の部屋の扉がバタンと開き、卓也が駆け込んでくる。
世界の終わりのような絶望の表情を浮かべ、足だけなぜか裸足だ。
「ユリ、大変!靴下忘れちゃった!」