勇者に従え!
店の中には誰も居なかった。
きょろきょろと辺りを見回すものの、人影らしき者は見当たらない。
「無駄足だったか‥」
そう呟いて帰ろうとした時に勇者の肩にポン、と手が置かれた。
「ぎッ!!!!!!!!!!!!!」
「そんなに驚かないで欲しいわぁー。貴方お客さん?」
それとも迷い人かしらね?
ドキドキと動機の止まらない勇者の顔を、数センチの至近距離でマジマジと観察する人間がそこに居た。
「ちチチチ、近いッ!!!!」
ぐいっと近すぎる顔を押し退けてから、勇者は必要な、しかるべき間合いの範囲まで後ずさった。
その結果、人間が少女である事が分かった。
「あんた‥一体何なんだ!」
「アタシよりも、貴方が先に名乗るべきじゃなーい?」
少女は勇者とほぼ同じ位の背丈で、ピンク色のふわふわした髪を高い位置で二つに結い上げていた。
勇者が何も言えずに押し黙っていると、少女は「まぁいっか」と呟くとスカートをパタパタと払ってから勇者の方に向き直った。
「アタシの名前はメディカよ。貴方は?」
「人に名乗る名はまだ持ち合わせていない‥。俺は、ただの勇者だ」
まだ半人前だけどな、と勇者は心の中で付け加える。