優しい旋律
急いで手に持っていた退部届を背後に隠す。


ふ、と突然に彼の口に笑いが灯った。


「頑張りなさい。君には期待している」


そう言うと、彼は彼女の肩に手を軽く置き、教室を出て行った。


思いも寄らない彼のその態度に、思考が止まる。


彼女は反射的に先生の背を追った。


「あの・・・!」


彼が歩みを止め、彼女の方を振り向く。


「何だ?」


上手く口が動かない。


だけど、彼女の中で、何かが彼女を突き動かした。


今、伝えなければいけない。


そう、何かが叫ぶのである。


「いえ、あの・・・。あ、ありがとうございます!」


彼は微笑を顔に浮かべ、再び歩き出した。


初めて見る先生の微笑み。


何時の間にか、彼女の心は少し速めに走り出していた。

< 10 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop