優しい旋律
「先生の好きな、『月の光』でも良いですか?」


気のせいか、彼女の声は少し上ずっていて、震えているようだった。


背筋を伸ばし、彼女は指を滑らせる。


今までの想いの全てを乗せて、鍵盤の上を指が踊り始める。


それは優しく心に響く、哀しい旋律。


彼女だけが奏でる、彼女だけの音色。


彼はその場で腕を組み、真っ直ぐな視線を彼女に注ぐ。


永遠にこの時が続けば良いのに・・・。


彼女は心からそう、祈った。


叶わぬ願いであることを知りながら。









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