優しい旋律
「ありがとう」


そう言って先生は彼女の元に近づいた。


「隣に座っても良いか?」


返事を待たずに、彼は彼女の隣に腰かけ、細く長い指を鍵盤の上に置いた。


あの時に聞いた、あの音色が、夕日と共に部屋を染めていく。


同じ旋律が、彼女の心にすっと入り込んでいく。


彼女は目を閉じた。


この音色を、永遠という言葉に刻む為に。


優しい旋律が、心に染み込んで行く。


それと同時に、彼女の胸は、一層苦しくなる。


「ありがとうございます」


彼女がそう笑って言うと、彼は鍵盤の上を走る指を徐に止めた。


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