優しい旋律
彼女も立ち上がり、


咄嗟に声を彼に投げかけた。


「先生、私・・・」


彼は立ち止まって、左手を上げた。


さよならを告げるその仕草に、心に灯る火が、一層彼女の胸を焦がし出す。


「それ以上、言うな」


その声は、どの楽器よりも優しい音を奏でる。


切ない響きと共に。


そんなこと、本当は出会ったときから気がついていた。


あの優しい音色が、全ての色を変えてしまった。


知ってしまった優しさは、今はただ、彼女の胸を苦しめるだけの存在だった。


「口にすれば、君は傷つく。聞けば、私は哀しくなる」


彼女の瞳に涙が溢れる。


今まで1度も泣かなかった。


泣けば、きっと嘘は付けなくなる。


心にしまい込んでいるこの想いに。


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