優しい旋律
ピアノの前に腰掛けているその後姿は、


黒いスーツを身に纏った、顧問の教師だった。


彼女は驚きのあまり、その場に立ち尽くしていた。


まさか、この人がこんな音を奏でるなんて・・・。


優しく、甘く、それでいてどこかせつなくて、儚げで。


聞く者の胸を、自然に締め付けていく。


彼は、彼女が見ているのに気が付いていないようであった。


優しく続くその演奏に、彼女は何時の間にか聞き入ってしまっていた。


それは彼女にとって、理想の音であり、目標でもあった。


いつか、誰よりも暖かい音を奏でたい。


優しい旋律に指を躍らせてみたい。


そして、今、自分が理想とすて追い求めてきた音が、ここにある。


ゆるりと流れる悠久の時が、ここにある。


ずっとこのまま、この音色を聞いていたい・・・、そう思った時であった。


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