ちいさいものがたり《仮》
たまたま携帯をいじりながら廊下を歩いていた時のことです
わたしは携帯に集中していて目線を下に落したままだったので前を歩いている人が誰だか分りませんでした
次の瞬間、わたしは何かを踏んで滑って転んでしまいました
「…え?…きゃっ…!!」
「…いったぁー…」
何を踏んだのか確認するとそれは茶色いお財布でした
「何これ…?」
慌てて辺りを見回すと廊下の角を曲がって行く創君を見つけました
もしかして…
わたしは立ち上がると急いで創君を追いかけました
すぐに立ち上がったはずなのに創君になかなか追いつきません
次の角を曲がると完全に見失ってしまいました
仕方がない、教室で渡そう。
そう思い来た道を戻ろうと振り向いたときでした
「…!?」
「…それ、どうしてあんたが持ってんの?」
目の前にいたのは創君でした
「…え…あ、さっき廊下で拾ったの。これ踏んで転んじゃって…」
創君は目を見開きました
それから口に手をあてて…お腹にも手をあてて…
「…ちょ、笑ってるの!?」
創君は笑いをこらえながら言いました
「あんたって…意外とドジだったんだな…」
「え…わ、悪い??」
わたしは思わず赤面してしまいました
創君が笑っているところをそのとき初めてみました
予想通り彼の笑顔はまぶしくて、けれど思った以上に明るい笑顔でした
「膝、すりむいてるじゃん。保健室行かないの?」
「えっ?本当だ…気づかなかった」
「はい、コレ。もう落とさないでね」
そう言ってお財布を渡すとわたしは創君と別れました