ちいさいものがたり《仮》

擦り傷はたいしてひどくなくすぐに治りました
そして創君と話したことも少し近づけたのもあの時以来全くありません
あいかわらず創君は一人で過ごしていて決して笑いません
擦り傷と一緒にあの時の出来事も消えてなくなってしまったようでした
やはりわたしは創君を眺めることしかできないのでした

夏休みに入りわたしはバイトが終わると毎日駅近くの商店街をぶらぶらすることが日課になりました
その日は久しぶりに本でも買おうかと思い本屋さんへ入りました
店内は冷房がきいていてとても涼しく、そのまま一番冷房がきいているエアコンの前の棚へ向かいました
その棚はたくさんの本が山積みになっていてどうやらほとんど古い外国の物語のようでした

「あれ?前田さん?」

ふいに聞き覚えのある声を掛けられて振り向くと創君がたっていました

「は、創君…?!」

「久しぶり。本買いに来た?」

「なんか面白そうなのあるかなって…そうだ。創君たくさん本読んでるよね?おすすめの本教えてくれないかな」

そう頼むと創君はニコッと笑って目の前にあった本を手に取りました
その本は皮の表紙に金の文字でアルファベットが書かれておりとても重そうな本でした

「これ、きれいなお姫様が出てくる物語なんだ。厚いけど結構読みやすい本だよ」

「お姫様?」

「うん。生まれてからずっとお城に閉じ込められているお姫様」

「閉じ込められてるんだ」

「でも最後はハッピーエンド。お城からちゃんと抜け出せる、かっこいい少年と」

「ふーん。なんかありきたりな話だね」

「すっげぇはっきりいうんだな」

「…え、あ、そんなつもりなかったんだ。ごめん」

「謝ることはないよ」

「わたし、コレ買ってくよ」

「なんか無理に押し付けちゃったみたいで悪いな…」

「ううん、せっかくだから読んでみるね」

レジに並び本の代金を払うと出口で創君が待っていました
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