ちいさいものがたり《仮》
「ずっと思ってたんだ…妹に似てるなって。笑った顔も声も似てるし、たぶん泣いた顔も怒った顔もそっくりだろうなと思って。ほら、驚いたも顔そっくり」
「妹さんに?」
「病弱でさ…この前死んじゃったんだけどね…。俺、両親いなくてさ真奈と2人暮らしだったからそんときはすっげぇへこんだわ。学校もいろいろあっていそがしかったから行けなかったし」
妹さんが原因だったのか。
創君はなんでもないように語っているけれど、きっとわたしが体験したことないような悲しみがあったんだろうと思いました
だからきっと今まで誰にも話せなくて、たまたま妹さんに似ているわたしを見つけて、たまたまわたしが話しかけたから、それだけなんだとも思いました
「じゃあ、今は一人なの?料理も掃除も全部してるの?」
「一応」
「すごい。見かけによらないってこのことだ」
「なんだよそれ?褒めてんの?侮辱してるの?」
「褒めてるんだよ」
「本当?嬉しいや」
わたしは調子にのっていってしまいました
「妹に褒められたから?」
言ったあとでこれはまずいんじゃないかと慌てて創君を見ましたがあまり気にもとめていないようで彼はこういいました
「ちがうよ、前田さんに褒められたからだよ」
「え?」
「あっ…」
創君は視線を窓の向こうに移しました
「あ、もうこんな時間だ。ごめん引きとめて」
窓の向こうにある時計台を見つけた創君は苦笑いしながら席を立ちました
「ううん。おいしかったよ、ありがとう」
「じゃ。またね」
「また今度」