ちいさいものがたり《仮》
それから毎日本屋へいってみたけれど創君には出会えませんでした
そして暑い夏休みも終わり再び教室で創君を見つけました
「は、創君」
「前田さんだ。おはよう」
「あのね、あの本全部読んだよ。とってもおもしろかった!!」
「ほら俺の言うとおりだろ?」
創君は笑いました
教室で笑ったのは初めてだったのでクラスのみんなが驚いた顔をしていたのだけれどわたしたちは気づきませんでした
それから何日かたった日の放課後、掃除当番だったわたしはいつもより遅く校門を出ました
すると校門脇のフェンスのところにもたれかかっていた人影がゆらりと動きわたしに声をかけたのです
「前田さん、一緒に帰らない?」
「え、ええ?!」
心底驚いた顔の私を見て創君はふと悲しげな目をしました
「嫌だ…?」
「べ、べべべ、別にいいけど」
その日は秋の風が吹きちょっと寒い日でした
「前田さん、寒い?」
「うん、ちょっと」
本当は緊張で全身じっとりと汗をかいていたのですがそんなことは知られたくなかったので思わず嘘をついてしましました
「手ぇかして?」
「…あ」
創君はわたしの手を胸の前で握り締めてくれました
創君の体温はとても優しくて暖かかったです
「前田さんの方が暖かくね?」
創君は苦笑いしました
わたしはどうしていいのか分からなくてとりあえず創君につられて笑い返しました
そうしていると急に創君がわたしを見つめました
「俺、前田さんといると楽なんだ」
「へ?」
「誰かと話すのとか面倒くさかったんだけど、前田さんとなら何時間話してても平気なんだよ」
「…そーかぁ。それは良かった」
わたしはそう言われて嬉しくて、自分でも気付かないうちににっこりとほほ笑んでいました