狙われし王女と秘密の騎士


侍女が捌け、一礼してディルを迎えると私の姿をしげしげと見てにっこり微笑んだ。


「見違えるようだね。昨日とは別人のようだ。そうするとやはり女性だね」
「ありがとうございます」


なんだか妙に気恥ずかしい気分になる。
しかしディルは何しにここへ来たのだろうか?
疑問に思いなからも奥へ案内し、ソファーに掛けてもらう。私もその前に座ると侍女が紅茶を持ってきて入れ、またスッと下がっていった。


「しかしカイルが王女を連れてくるとはね」


ディルはソファーに深く腰かけて笑った。
どうやら私という来客が珍しく、様子見がてら話しにきたようだった。


「カイルには初めから正体がばれていたようです」


苦笑しながらそう言うと、ディルは頷いてフッと遠い目をした。


「アイツは鋭いから。昔から頭がいいんだ」


その口調に不躾ながらも眉を潜めてしまった。
昨日から感じる二人の空気感にだ。


「あの……」


聞いてみようかと戸惑いながら口を開くいたその時、トントンと部屋をノックされた。
反射で返事をするとすぐに扉が開く。


「入るぞ」



ガチャリと入って来たカイルはディルの姿を見て目を丸くし、足を止める。


「……兄上。いらしてたんですか」
「やぁ。いいよ、俺はもう出るから。姫君の様子を見に来ただけだからさ」
「すみません。お邪魔して」


ペコッと頭を下げたカイルの肩を笑顔でポンッと叩いてディルは部屋を出て行った。


「……何か用があったのか?兄上は」


ディルが出て行った方を見たまま聞いてくる。
その声が入って来たときより低くなっており、首を傾げる。
何しに来たのか聞きたいのは私のほうだし、カイルが不機嫌になる理由もわからない。


「カイルこそ」


そう言って手で座るよう身振りすると、先程ディルが座った位置にカイルも腰掛けた。


「ああ、お頭には一足先にエルシールに帰ってもらったから」


その声はいつもの通りに戻っており、少しほっとする。
そして、お頭には馬でエルシールへ戻ってもらったというのだ。
馬ならエルシールまで最短2日だ。


「どうして?」
「あちらに仲間がいると言ってたろ?集めておいてもらうんだ」
「集めてどうするの?」
「その時が来たら、必ず国民は混乱する。巻き込まれるのは必須だ。その時の国民のサポートと状況の報告を頼んだ。頭の交渉術なら国民を上手くまとめてくれる。被害は抑えられるだろう」


その時とは、国を取り戻す時のことだ。
少なくとも城下町は戦に巻き込まれるだろうから。



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