狙われし王女と秘密の騎士

ここからというのは国からということだろうか。
大抵、王となる王子以外の兄弟は騎士団を取り仕切ったり宰相や補佐官を務めることがある。
しかしカイルはそういうことではなさそうだった。


「あいつは、ある日国王に心願して、他国を巡って世に出て情報を得ると言ったんだ。もちろん反対されたが、諦めず何度も話し合い、ついにこの城から離れて行ったんだ」
「カイルが……」
「しかも、初めは供を着けたがいつも振り切られてしまうんだ。一国の王子が恐ろしいことするよね」


カイルに初めて会ったときのことを思い出す。
カイルの正体を知った今、他国に供も着けずに一人でフラフラとしていたカイルは危ないことこの上ない。
普通ならあり得ないことだ。
王子の供に着けるくらいだから、供の人はそれなりの手練れだろうにそれを毎回振り切るとはなかなか大胆である。

しかし側室の子供で王にはなれないカイルにとって、ここは窮屈で居場所がなかったのかもしれない。

ましてや、同い年の兄なんて。
珍しいことではないが、カイルなりに思うところはあったのだろう。

悩んだだろうと思う。
私はフッとあの整った顔立ちを思いだした。
彼の抱えた想いを考えただけでも胸が締め付けられるようだ。


「あいつが自分から何かするのは初めてだ。あいつはね、凄く頭がいいんだ。剣も騎士団に教えるくらいに強い。何度、陰であいつが次王になったらと言われたことか」


それほどまでに、この王子同士の能力の差があるのだろうか。



「でもあいつはそれをわかっていたんだ。だからこそわざと力を封じ込めた所はある。自分の家臣達が自分を王に押し上げようとしたら王子同士の争いになり、二人とも危険になるからね。だからそうなる前に放蕩王子を演じたんだ」


ディル王子は力無く笑った。


「僕だってあいつが王になったらとおもったこともある」


そう呟いた彼もまた同い年の兄弟のことで悩む苦しんだのだろう。
側室、異母兄弟なんて王家では珍しいことではないのに、蓋を開ければ中身は沼のようだ。
しかし、あの国王がディル王子を次王にするつもりなら、ディル王子の能力は認められているのだろう。
きっとカイルはそれをわかっていたから、あえてディル王子から離れようとしたのではないだろうか。




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