野球が嫌い。あんたも…大っ嫌い!
「野球が、…憎い。…野球が憎いよ…。健太を、奪わないでよ…」
「美和…」
「健太のバカ…。バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バ――…」
涙を流して、バカバカバカバカ連呼して。
子供みたいに泣きじゃくる。そんなあたしを止めたのは――
あたしを優しく包み込んだ健太だった。
ふわりと鼻を掠めた健太の匂いと体温にあたしの涙はぴたりと止んだ。
「ちょっ…、ちょっと、健太…?」
それ以上動きのない健太と恥ずかしさとで健太の胸を突き返そうとすると、
回された腕に力が入り、それを拒まれた。
まるで、もう少しこうしてろと言われているようで、
あたしはそれ以上何も出来なくなってしまった。
耳に届いてくる健太の鼓動。
その鼓動が早いのかどうかは分からない。
けれど、健太とあたしの鼓動は重なっていた。
近くの草むらから聞こえてくる耳に心地のいい鈴虫の音。
静かな空間と
健太の匂いと、それにプラスされたちょっぴりの汗くささ。
それらはあたしにとってとても居心地のいいもので、あたしの心さえも静かに鎮めてくれた。