野球が嫌い。あんたも…大っ嫌い!
「……急にごめん」
どのくらいそうしていただろう。
健太の消え入りそうな声と共に2人の身体はゆっくりと離された。
視界がゆっくりと広がり、少しだけ見上げた先にあったのは健太の真剣な顔。
でもその顔はすぐに和らいで軽い笑顔を作り、あたしの頭にポンと手を乗せる。
「明日からさ、大会なんだ。中学最後の大会」
脈略のない言葉にあたしは瞬きをするけれど、いつの間にか真剣な顔をしていた健太にあたしも真剣に耳を傾けた。
「でさ、この大会が終わったら、美和に伝えたいことがあるんだ」
「伝えたいこと?」
あたしの言葉に健太は小さく頷く。
「だから、もう少しだけ待っててほしい」
それは思いがけない言葉だった。
だって隣にいたあたしを置いてただ前を突き進むだけだった健太から『待っててほしい』なんて言葉が出てくるなんて。
「それ、マジで言ってるの?」
「こんな時に冗談なんて言わないだろ。普通」
「健太は普通じゃないから」
「なんだよそれ。…まぁいいさ。でもこれは本当に大マジ」
疑うあたしに真剣に返す健太。
にわかには信じがたかったけれど、健太からそんな言葉が出てきたことが嬉しくて、
「じゃあ、信じて待っちゃうよ?」
単純なあたしは信じてみることにした。
「ああ、信じて待っとけ」