野球が嫌い。あんたも…大っ嫌い!

「おーい、美和ー! 聞こえてんだろー。無視すんなー! 美和ー、おーい!」



声は更に勢いをつけて呼び続け、周囲の視線を集めた。


無視したいのが本心。


でも


前から後ろから視線が突き刺さって胸が痛い。



「おーい、美和ー」



このまま立ち去ったら絶対に性格悪い女だと思われる。


明日から夏休みだけれど、それってすごく気分が悪い。



うーん、もぉーー。



あたしは唇を噛み締めて立ち止まって、



「みー……」
「聞こえてるってば!」



飽きずに呼び続ける声を苛立ち混じりに遮って、振り返った。



「おっ、やっとこっち向いた」



そこにはあたしが振り返ったことに満足そうな顔をして立っている声の主。


フェンスの向こう。


薄汚れた練習用のユニフォームとすでに日焼けした顔。


こんななりで女子にモテるこいつ。


あたしが声を聞いただけで分かる、

幼馴染&誰もが認める野球バカ。


その名も、
水谷 健太。


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