野球が嫌い。あんたも…大っ嫌い!
白い歯を見せて笑う健太。
キャッチボールが上手かった健太。
すべて、すべて。あたしのすべては健太だった。
どうしよう…。胸が痛いよ…。
あたしはきっと…、ずっと…、健太が大好きだったんだ。
意地ばかり張って。
気付けばあたしの手のひらには何も残っていない。
あの時には確かにあった健太の温もりも。
頬を生ぬるいものが伝い、顔を膝の中に埋める。
おばちゃん、ごめん。
健太にお守り渡せなかった…。
「…うっ……うぅ……」
…健太…
…健太…
その時、石段を駆け上がってくる足音が聞こえたような気がした。
「まーた、泣いてんの?」
空耳かと思った。
でも膝から顔を上げると、数段下の石段に困ったような顔を浮かべた健太が立っていた。
あたしは自分の目を疑った。
だって健太はこれから試合のはずで、すでに試合会場に向かってるはずだったから。