野球が嫌い。あんたも…大っ嫌い!
健太はあたしの疑問を察知したのか、ははっと笑顔を見せた。
「試合にはちゃんと行くよ。ただちょっとな、試合前に大切なことしなきゃと思って」
大切なこと?
健太はそう言うとおもむろにお尻のポケットに手を突っ込み取り出すと、それをあたしに見せるように頭の上にかざした。
あたしは健太が持つそれに
「…あっ」
と声を上げた。
それは健太に渡してほしいと美智子おばちゃんに託された青いお守りだった。
「やっぱり美和だったか」
健太はあたしの反応に納得したようにかざしていた手を下ろした。
「部室の前の木の下に落ちてたんだ。美和がこのお守りを知ってるってことはあの現場を見たって事だよな」
あの現場という言葉にあたしの心はまたズキリと痛んだ。
紛れもなく、あの抱き合ってた現場のことだ。
思い出してしまうと訳も分からない感情が込み上げてきて、気付くとその感情をぶつけていた。
「な、なによ! 大切なお守り無くされそうになってわざわざ怒りにここまで来たって訳!?」
「違うって」
「試合前にあんなとこで抱き合ってる方が悪趣味だし、…あ、頭どうかしてんじゃないの!?」
「美和、違うって。あれは誤解だって…」
「は? 何が誤解だっていうの!? あたしはこの目でちゃんと――」
「美和!! 聞けって!!」
今までに聞いたこともない健太の荒々しい声に、あたしは涙目になって言葉を失った。