野球が嫌い。あんたも…大っ嫌い!

「何?」


「お帰りですか?」


「見れば分かると思いますが?」



語尾を強めて意地悪っぽく言うあたしに、

健太は「ふーん」なんて余裕たっぷりの表情を見せた。


何よ、ふーんって。


一向に進まない会話にあたしの苛立ちはさらに増す。



「あたし帰りたいの。早く用件言ってくれない?」



あんなにしつこく呼び止めて。

これでくだらない用件だったりしたらどうしてくれる?

両頬をおもいっきりつねってやろうか?

それとも池に突き落としてやろうか?


そこまで考えていると「ああ、用件ね」なんて思い出したように健太は言葉を続けて



「気をつけて帰れよって、それが言いたかっただけ」



白い歯を見せて爽やかに笑って見せた。



くだらない用件だったらどうしてくれる?

数秒前のあたし。


なのに、


予想外の言葉とその笑顔に、


あたしの心臓は不覚にもキューンって


キューンってなってしまったんだ。


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