野球が嫌い。あんたも…大っ嫌い!
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健太は中学最後の試合が終わった後、思いもよらない言葉を口にした。
『野球はもう終わり。これからは美和と一緒にいる時間を大切にしたい。今まで寂しい思いをさせてきた分、一緒にいような』
って。
健太が野球を辞める?
信じられなかった。
だってあの野球バカがだよ?
半信半疑でいたあたしだけれど、健太は言葉通り、野球の“や”の字も口にすることはなくて、
残りの中学生活をあたしと一緒に過ごしてくれた。
今まで離れていた時間を埋めるように、ずっと一緒に。
そうそう。
あの境内はあたしたちのデートコースになった。
1人で眺める景色と健太と眺める景色はやっぱり全然違くて、何倍も絶景に見えた。
健太が教えてくれたっけ。
夏休みに入る前にあたしを呼び止めて言いそびれてしまった言葉。
『今度さ…』と言いかけたやつ。
あれはまた2人で境内に行こうなって言おうとしてくれたんだって。
その時に告白するつもりでいてくれたみたい。
結局告白した場所はそこだったけど。
そうしてあたしと健太の交際は順調に続いた。
でも、順調に続く中で、あたしの中で迷いが生じていた。
健太は本当にこのまま野球を辞めてしまっていいのだろうか。
あたしに気を使って本当はやりたい野球を我慢してるんじゃないだろうか。
だとしたらあたしは、言ってあげるべき言葉があるんじゃないないか。
元野球バカの彼女として言ってあげるべき言葉が。
でもそんな言葉を言えぬまま、あたしたちは同じ高校へと進学した。