野球が嫌い。あんたも…大っ嫌い!

「そう。俺が美和に渡したあのボール」


「はぁ? あれ味方って言わないし。それにあのボールは野球バカのただの自己満でしょ?」


「あーそうだったな。ははっ」


「ったく…」



実はあのボールもあたしの支えになってる。


健太が想いを込めてくれたボール。


でもそんなこと決して口にはしない。


だってそれじゃあたしも野球バカの色に染まっちゃってるみたいで悔しいじゃない?


だからその言葉だけはそっと心の中にしまっておく。



「さーて。そろそろ教室に戻んなきゃな」



そう健太が言葉にした時、校内にチャイムが鳴り響いた。



「やっべ! ホームルームに遅れたら1週間ボールに触らせてくれないんだった! 美和走って戻るぞ」



慌ててあたしの手を取って走り出す健太。


健太に手を繋がれて走る。


走りながら視界に入っていたのは健太の背中。


でももう、健太の背中を追いかけることも背を向けることもしない。


あたしは走る速度を少しだけ上げて健太の隣に並ぶ。



「ねえ、健太」


「ん?」



あたしが好きになった人は野球バカ。


きっと、ずっと野球バカ。


まだ心から野球を好きになれないけれど、それでもこれだけは胸を張って言える。


あたしの好きな人は野球好きの、野球バカですって。


あたしは繋がれていない方の手で健太の背中を勢いよく叩いた。



「野球、頑張れよ!」







【end】







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