ますかれーど
「ーーっ。ーー‥んた!心太!?」

「え?」

「んもう。また飛んでる」

「あ、ごめん‥」

「最近、いつもそうだね?大丈夫?」



心配そうな眼差しで私を覗き込む紺野くん。



「休憩しよっか。凉に飲み物持ってきてもらお?何が良い?」



気を‥使わせちゃってる?



「あ‥牛乳を」

「だと思った♪」



無邪気に笑う彼にホッとする。


私の苦手な夏は盛りを終え、収束へと向かってゆく。

背の高い向日葵は、自分の生きた証を残す為に頭を垂れた。

季節は、確実に秋へと歩みを進める。



「心太、ここ教えて?」

「あ、そこはね?」



もうすぐ夏休みが終わる。

宿題は、ギリギリになってからやるもんでしょ?



「あー、ナルホド」

「理解しちゃえば、あとは簡単。こっちも出来るよ」

「ありがとっ心太」




ちゅっ




そんな軽いキスが当たり前になるくらい、私はココロの中に彼の侵入を許している。


でも、まだ言葉にすることが出来ない、

『好き』の2文字。



それを阻むものは、
ーー‥何?




コンコンッ



「失礼致します」



ドアが鳴り、カップを2つトレイに乗せて持ってきてくれた凉さん。



「あ‥いつも、ありがとうございます」

「いいえ」



凛々しく優しく微笑んだ凉さんは、紺野くんに何かを耳打ちした。



「‥わかった」



低くそう声を落とした紺野くんは、そっと私にキスをして部屋を出て行く。


紺野くんの家に来るようになってから、この光景を何回か見ている。


それは、“姫衣”様に会いに行く時。


凉さんから少しだけ姫衣様のことを聞いたんだ。

って言っても、良家のお嬢様で、紺野兄弟の幼なじみだってことくらいしか分からなかったけど。


この広い部屋の中に独りきり。

勉強してれば良いのに。何故か独りじゃ進まなくって。


どうでも良いことから、考えたくないことまで頭に浮かんでは消えてゆく。



麗花の新しい彼氏のこととか、

生徒会のこととか、

学校のこと、

お父さんやお母さんのこと、



そして



あの、紅澤家の長男のこと。



あの人のことは、何故だかいつも頭の片隅にある。

よっぽど妹離れが堪えたのかな、私。


テーブルの上の腕に顔を埋めながら、ため息ばかりが口をつく。
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