ますかれーど
「っく、ひ‥っく」


どうしたの?


「‥んでもねぇよ」


泣いてる‥?


「どっか行けっ!ボケナス」




私が泣きそうな時は、必ず助けてくれた。
光へと導いてくれた。



私は?

私は、あなたを光の当たる場所まで導くことができるかな?





ーーーーーー‥





ゆらゆらと揺れる感覚。

ふかふかと柔らかい感触。

ギシッ‥と軋む音に


キュッと縛られる手首。




ーーーー‥え?




なぞるように触れる唇。

それはだんだんと激しさを増し、全てを求めるように吸い上げる。



離れる一瞬に漏れるのは、苦しい息継ぎの音だけ。



「は‥ぁこんのく‥んぅっ」




名前すらも呼ばせてもらえなくて。

固定された腕と、のしかかられた寝起きの身体は、身動きがとれなくて。




怖い。




ただただ、その感情だけが、私を支配する。




「や‥だ。やだっ!!」



やっとの思いで出せた抵抗の言葉に、彼はピクッと肩をあげ顔を離していく。


気が付けばもう夜。

満月の明るい光が、この広い部屋を照らしていた。



「心‥」



“心太”じゃなくて、“心”って呼んだ彼。

眉を寄せ、少し怒ってるような真剣な顔を見せる。


月明かりがキラキラと射し込むこの部屋なのに、

彼の紺色の瞳はーー‥まるで、闇。



「俺のコト、好き?」



またその質問。

そしてまた、

答えられない私。



瞳を合わせていられなくて、ふいっと顔を逸らそうとするけれど、手で頬を押さえられて動けない。


その手は、

クーラーのせいなのか、とても‥とても冷たい。



「心、答えて」



この紺色の闇に飲まれてはいけない。

細胞の全てが、そう言っている気がしたの。



「わから‥ない」



解らない。
理解ができない。

そう。
それが、今の私のココロ。




私の曖昧な返事を聞いた彼は、ふっと悲しい瞳で私の蒼を見つめた。


それは、今まで見たことのないような

悲しくて
切なくて
苦しそうな瞳。



「じゃぁ‥」



彼の高い声は、何かを抑えるように低く、低く、言葉を繋ぐ。








「クロトが好き?」








私のナカで
確かに、大きく

ドクン‥と

何かが跳ねる音がした。




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